20代の頃の話です 。
特にクリスマスの予定もない
一人暮らし社会人の私に、
Bさんがフランス料理のディナーに誘ってくれました。
Bさんは習い事で一時期一緒だった人で、
私より一回りくらい年上でした。
Bさんも一人暮らし社会人。
今でこそ30代独身女性は珍しくありませんが
当時の私からするとBさんは
「かっこいいキャリアウーマン」という感じでした。
仕事の職種は違うけど
素敵な場所や物事をいろいろ知っている彼女は
「頼れるお姉さん」でもありました。
Bさんは、習い事を辞めてからも
時々声をかけてくれていました。
食事に誘ってくれたのは
Bさんがよく知っているお店でした。
そのお店はビルの3階にあって
クリスマスの飾り付けもあまり派手ではない
白っぽく明るいスタイリッシュなお店でした。
私たちはカウンターに腰掛け
Bさんのなじみのシェフが直接
カウンター越しに料理を運んでくれました。
お店は大人っぽい雰囲気で
髙いスツールに腰かける長身のBさんも
かっこよくて素敵でした。
足が床に届かなくて落ち着かない
身長157㎝の私は
何だか場違いな気もしていました。
後ろのテーブル席では
カップルたちがクリスマスディナーを楽しんでいました。
料理を運んでくれるシェフは
忙しい合間をぬって
私たちともにこやかに話をしてくれました。
ちょうどサラダを食べ終わろうとする頃
シェフが「いかがですか?」と
声をかけてくれました。
馴染みのない「とり肉」が入っていたので
「おいしいです。鴨肉ですか?」と、
「とり肉」以外に唯一食べたことのある「鴨」かと思い
シェフに尋ねました。
すると
「それハトです」とシェフ。
え? ハト? あの鳩?
シェフもBさんも、ニコニコして私を見ていました。
きっと私はまさに
鳩が豆鉄砲を食らったような顔
をしていたでしょう。
シェフの意外すぎる答えに
固まっていたであろう私。
生まれて初めて「ハト」を食べてしまった・・・・
もう既にそのお肉はお腹に納まったあと。
食べたあとに教えてもらえてよかった、と
思いました。
しかし、20代の私には
「ハト」のショックが大きかったらしく
それ以降のメインディッシュ等の記憶が
まったくないのです。
いや、サラダの前の前菜等の記憶も。
シェフが特別にふるまってくれた
(その記憶はある)
料理やデザートの記憶も
まったくありません。
それはなにも
もう数十年経っているからということではなく
クリスマス後に職場で
「私ハト食べたわー」と話してる時点で
既にサラダ以外の記憶がなかったのです。
せっかくの素敵なディナーだったのに
サラダ以外覚えてないなんて
すごくもったいないことですが。
白いプレートに盛られたそのサラダは
レタスなどのグリーンのリーフ類の中に
「とり肉」や赤や黄色等の野菜などがちりばめられ
柑橘系のジュレソースがかけられていて、
キラキラととても美しく
クリスマスっぽいサラダでした。
それはさながら
クリスマスの飾りが設えられた
絵本に出てくるような楽しい森、
いつぞやに見た北欧の
森の中のレストランに向かう
美しい森の小路のような、
本当にきれいなサラダ。
そして、
柑橘系のジュレソースも
「とり肉」(いや「ハト」と言おう!)も
本当においしかったのです。
そのサラダの記憶が残っているだけでも
私には素敵なクリスマスディナーでした
(「ハト」というサプライズもある)。
いつも読んでくださって、ありがとうございます。